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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)8638号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕事故原因と態様について検討するに、<証拠>によれば次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場は、ほぼ南北に通ずる歩車道の区別のある車道幅員7.35米の舗装道路(以下、甲道路という)と、ほぼ東北東方向から西南西方向に通ずる歩車道の区別のない幅員約六米の舗装道路(以下、乙道路という)が斜めに交差する交差点(以下本件交差点という)北寄りの甲道路上であり、交差点北東角にはガソリンスタンドがあり、その他の角はいずれも空地となつている。また、甲道路は交差点の北側少し先からゆるく西北方向にカーブしているが、南側は直線で見通しはよい。

(二) 被告会社は、本件事故当時、被告練馬区から側溝・水路改修工事を請負い施行していたが、右工事には、乙道路に沿い本件交差点において甲道路を横断して、地下に下水管を埋設する工事が含まれていた。そして甲道路は主要道路であるため、本件交差点での工事については、工事時間を夜間の午後一一時三〇分から翌朝午前六時までに限り、その間に道路の堀削と下水管の埋設をした後、堀削部分を埋め戻して仮復旧し、その余の時間は工事部分を一般の交通に開放するよう、所轄警察署より指示されていた。

本件事故前日の夜半から事故当日の午前四時半頃までの間に、被告会社は本件交差点中央部分の右下水管埋設工事を施行し、その結果、交差点内の乙道路中央部分やや北寄りに、甲道路を斜めに横切る形で、交差点東側入口付近から西側出口の手前約二二米までの間の約7.7米にわたつて約1.3米の幅で舗装部分が切りとられ、そして、その箇所について、排水管を埋設した堀削部分を砂で数十種ごとに填圧しながら埋め戻し、次いで路面と水平になるまで約三〇糎の厚さに混砕を入れ、最後にその上にアスファルトコンクリートを約一〇糎の厚さに盛り上げて仮復旧のうえ、一般の通行の用に供すべく開放されていた。しかしながら、右工事部分は、交差点中央部分に当つていた関係もあつてか、埋戻し箇所が当日午前からの車両通行の重みのため陥没してすり鉢状の窪みとなり、本件事故当時には、その底部の深さは、路面から七ないし一〇糎となつていた。

(三) 右仮復旧箇所の交差点東端部分には、幅1.5米、長さ3.05米の鉄板が一枚、甲道路に沿つて縦長に敷かれており、乙道路の交差点東側入口からやや東側に入つた位置には点滅灯数個が置かれていたほか、交差点のガソリンスタンドの側を除く三隅の歩道上には、道路工事中である旨を示す案内板が設置されていた。

(四) 交差点付近は、街灯が少なく、薄暗い場所であるが、事故当時はまだガソリンスタンドが閉店前であつたため、その照明によつてある程度明るかつた。しかしそれ以上に、本件交差点内を照らすための照明の設備はなかつた。

(五) 甲道路の制限速度は、時速三〇粁であつた。

(六) 亡茂雄は、甲道路を被害車両である単車に乗つてから北に向けて進行中、本件交差点を通りすぎたところで、単車もろとも甲道路上に転倒した。そして、その転倒位置は、交差点内の前記仮復旧箇所南端中央部から亡茂雄は北へ一八米、単車は北へ21.7米の各地点であつた。

(七) 本件事故直後司法警察職員が実況見分をなした時には、前記仮復旧箇所の陥没部分および付近に単車のタイヤ痕その他の擦過痕は見当らなかつたが、事故発生後、実況見分時までの間に、被告会社従業員田中粛らの手によつて右陥没部分は砂で埋戻されていたため、その砂を手でとり除いて窪みの深さの実測が行われた。

以上の事実が認められ、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

そして、甲道路上には、工事の仮復旧箇所の窪み以外に交通の安全を阻害する事情は見当らず、亡茂雄が衝撃によつてハンドルをとられ易い単車に乗つていたこと、前記陥没部分から転倒位置までの距離からみて、同人が相当の速度で単車を運転していたものと窺われること、甲道路を南から北に向けて進行する車両にとつて反対方向からガソリンスタンドの明りと自車の前照灯の明りが交差するため路上の窪みに陰ができ難く、その存在が必ずしも十分に認めうる状況にはなかつたものと推認されること、本件証拠上、本件事故が前記窪みと関係のない他の原因によつて生じたものと窺わせる何らの痕跡も認められないことなどの事情を総合すると、本件事故は、亡茂雄が相当の速度で単車を運転していて路上の窪みに気付かず、これに前輪を落してハンドルの自由を失い、路上に転倒したものと推認される。以上に反し本件事故は同人の他の原因による運転ミスであることを窺わせる証拠はない。

二(責任原因)

(一) 被告練馬区

本件交差点が、被告練馬区の所有に属し、その管理下であることは当事者間に争いがない。

そこで、道路管理の瑕疵の点について判断すると、前認定のとおり、本件交差点を横切つて行われていた排水管埋設工事によつて路面に深さ七ないし一〇糎のすり鉢状の陥没部分が存在したことが明らかであるが、一般に道路に多少の凹凸は避けられないとはいえ、本件道路は舗装道路であつて凹凸の存在が一般的である非舗装道路とは同列に論じられない道理である。しかも、右陥没部分以外に付近にこれと同程度の窪みがあつたことを窺わせる証拠はない。そうするとこのように良好な道路条件においては、通常の車両運転者はその陥没部分の存在を直前まで気付かず、他の平坦部分と同様の道路条件であること予想して走行するのが普通である。ことに本件被害車両のような単車にとつて、右陥没部分の及ぼす衝撃は小さくなく、その走行速度によつては、ハンドルの自由を失つて、本件事故のような結果を招来する危険性が多分にあつたというべきである。そうすると、本件交差点は、右陥没部分のために通常の道路に期待される安全性を欠いていたということができ従つてこのような状態でその通行を一般に開放したことは、道路の管理に瑕疵があつたものといわなくてはならない。よつて被告練馬区は、右道路の管理者として右瑕疵による責任を免れないものというべきである。

(二) 被告会社

本件交差点における排水管埋設工事が被告会社従業員によつて行われていたことは、当事者間に争いがない。そして、埋設箇所の埋め戻し工事の状況は前記一に認定のとおりであり、埋め戻した砂は填圧してあるとはいうものの、前認定のとおり仮復旧時にはアスファルト・コンクリートを路面よりも約一〇糎高く盛りあげていることは、その箇所が車両通行の重みで相当程度沈下することを予測していることを示すものに他ならないから、車両の通行状況によつては施行者の予定を越えた沈下を来し、道路の陥没を生ずることも当然予想されるものというべきである。

しかるところ<証拠>によれば、同人は被告会社に勤務し、被告会社の工事現場監督者として事故前から排水管埋設工事に従事し、当日午前四時半頃、作業を終了して埋設箇所路面の仮復旧をしてからその上をダンプカーが五ないし六台通過するのを見てこれで大丈夫と思い、午前六時頃工事現場を引上げたこと、事故当夜からの工事箇所の状況を見に来たところ、その部分が前認定のような窪みを生じているのを発見して危険を感じ、補修のため人夫を集めるべく事務所に帰つている間に本件事故が発生したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上によれば、本件工事を担当した被告会社従業員田中らは、仮復旧部分の陥没が車両進行の危険を生ぜしめる程度に達するおそれのあることが予想できる状況であつたにも拘わらず、事故当日の午前六時から事故直前まで一四時間以上にわたつて、仮復旧箇所の陥没状況の確認およびその補修措置を全く講ずることなく放置し、また陥没状況を通行車両に了知せしめる照明設備も特に設けなかつたのであるから、仮復旧部分の安全保守を怠つた過失があるものというべく、右過失によつて本件事故が生ずるに至つたのであるから、被告会社には、民法七一五条一項による責任があるというべきである。

三(過失相殺)

本件事故態様は、前記一に判示のとおりであるから、被害車運転の亡茂雄においても、道路工事の案内板の設けられた本件交差点を通通するについて、相当程度の速度を出したまま前方注視義務を十分に尽さなかつた過失があるというべきである。よつて、本件賠償額算定に当つては、右過失とし斟酌して、これを略三割程度減額するのが相当である。

(坂井芳雄 浜崎恭生 鷺岡康雄)

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